WWつらゆきのつらつらぐさWW

                                       女もすなる、映画日記といふものを、                  つらゆきもしてみむとて、するなり

『アルゴ』 ー極私的ソダーバーグ時代の追憶ー

『アルゴ』は去年のアカデミー賞作品賞受賞作。

 

あらすじ

①1979年、イスラム革命で荒れるイラン。過激派がアメリカ大使館を襲撃、大混乱のなか裏口から6人の大使館員が脱出、カナダ大使の家に身を隠す。

②CIAの人質奪還のプロ、トニー・メンデスの名案“ウソの映画を企画し、6人をロケハンに来た撮影スタッフに仕立て上げ、出国させる”は成功するでしょうか?

 

史実をもとにしているうえ、映画作りの映画でもあるので、

その時点すでに楽しいじゃないの。

タイヘンな事件を扱っているんだから楽しいとか言ったら不謹慎か。

謹賀新年!2014!

 

さて監督兼主演はベン・アフレックの馬面。

俳優としては鼻呼吸過ぎるし、なんか常にしらじらしい、

つまり下手なんです。多分。

 

そうしてできた映画。

 

特徴1

まあ、心意気は感じられるベンアフの監督ぶり。

地味だし映画的カタルシスもほどほど。

でも「いいたいことは分かったし、その頑張り(政治的態度も含む)を応援するよ!」

と言いたくなる。

 

特徴2

キャスト渋い。

全体的に仮性インテリ草食男子のむさ苦しさ。

女優陣に漂ういい味の万年脇役感。

正直いなくてもいい。(クレア・デュヴァル最高!)

最後にホロッとさせるノリのいいオヤジ。

 

特徴3

特に映像的実験はない、真っ当な撮り方がかえって新鮮?

 

で、思い出したのは、

何年か前にジョージ・クルーニーが撮った『シリアナ』。

上の特徴すべて満たしており、

よく見たらジョージ・クルーニーがプロデューサーになってるじゃないの。

 

ジョージ・クルーニーといえば

最近はアルフォンソ・キュアロンの『ゼロ・グラヴィティ』とかいう

映像すごいけど内容は飛んでると評判の映画に出ているじゃないか。

共演しているサンドラ・ブロック

ゴツさではハリウッドで右に出るもんはいないけど、

なぜかとびきりキュートであるという稀有な存在として、

ちょっと面白い立ち位置ににいる、

売れている女優の中ではかなり作品の選択肢の幅が広く、

かつ本人もその自由を喜んでいるような様子で、イケイケゴーゴゴーですね。

 

って、なんの話かわかんなくなっちゃったけど、

とにかくこの『アルゴ』には

本気モードのジョージ・クルーニーがかんでいるわけで、

そこにはソダーバーグ組の威信みたいなものが蜃気楼のように見えるわけです。

 

 懐かしのソダーバーグ組

スティーブン・ソダーバーグ26歳が

セックスと嘘とビデオテープ』でカンヌに颯爽と現れ、たものの、

しばらくは一般世論的に鳴かず飛ばずになったものの、

『KAFKA/迷宮の悪夢』『スキゾポリス』なんて小難しい映画を撮りつつ

アウト・オブ・サイト』で当代きってののセックスシンボルを

じわじわと作りあげていったのはもう15年くらい前。

 

その後『トラフィック』『エリン・ブロコヴィチ』で

絶対的なポジションを確立したわけです。

当時、塾に行くふりをしてソダーバーグ特集に足しげく通ったものでした。

 

何にひかれたかというと

ソダーバーグを勝利させないことの
思いがけない難しさについて

――現代アメリカ映画のポストモダンシニシズム

http://www16.ocn.ne.jp/~oblique/texts/JinshiFUJII/ocean.htm

 

という文章で徹底的にこき下ろされている、

まさにその部分に魅力を感じたわけです。

 

つまり、ソダーバーグはこの自身の下手糞さを、それこそが映画の現代性だ、それこそがハリウッド・メジャーに抵抗する自らの作家性だ、といいくるめるレトリックを発見してしまったのです

 

(以下の話は上のコラムが面白かったから書いたようなもの)

その発見を自らの発明のように我がもの顔で駆使する狡猾なソダーバーグは、

当時なんともいえない特異さを放っていたのです。

また、大作も小作も平均的に、悪く言えば均質的にやりこなすソダーバーグに、

スマートさを感じていたところもあります。

 

同じようにとは言わないけれど、

そんな魅力的ともいえない魅力にひきつけられた大物たちが

続々とソダーバーグ周りに集まり、

作品のみならず、プロダクションまで一緒に作ったりしたわけです。

 

それが、ジョージ・クルー二―を筆頭に、

ブラピ、マット・デイモンジュリア・ロバーツ、キャサゼタ、デルトロ、

フランス人もちらほら

 

まだまだいっぱい

 

あと女優はとびきり売れっ子で分かりやすいセクシー系。

あと全員共通してるのは、熱心な民主党て支持者ってとこ?(笑)

 

これに関しては、冗談ではなく政治思想的に同調したって面は

かなりあるんじゃないか。

上記の『トラフィック』『エリン・ブロコビッチ』で

2000年に名を挙げて、

2001年にオーシャンズ11が世に出たわけで、

 

2001年に何があったかといえば

9.11が起きて、アメリカの正義が大きく揺さぶられたわけで、

 

そこで監督として大スター軍団をまとめる力もありながら、 

やけにクールで芸術家肌でわが道を行く人物が磁場になったというのも

わからなくもないなと。

 

9.11後、 

愛国心の昂揚=戦争へと突き進むことに、

真っ向からノーということできなくても、

 『オーシャンズ12』で再結集したり、

映画作りにのめりこんだりすることで、

平静さをもって距離を置くということができたんじゃないかな。

こちらもジョージ・クルーニー監督作『グッドナイト・アンド・グッドラック』も

そうだったんじゃないかな。

 

というのは2000年代頭のことで、

それからソダーバーグ組がどうなっていったかというと、

 

そもそもソダーバーグはかなりSF志向が強いので、

SFものとザ・インディペンデントものを作っていくうちに、

徐々に“仲間意識”みたいなものがゆるくなり、

お互いになにかしらかんでいたりするけど、

まあ昔のような徒党を組む感じはなくなっていった、ように思う。

私も(笑)。

 

で、2013年の『アルゴ』。

ある意味、ベンアフはおそらく親友マット・デイモンを通して

ソダーバーグの陶窯を受けた甥弟子くらいの感じで、

(さらに言えばこの人達はケヴィン・スミスという米オタク界の

良心とも、兄弟みたいな関係。

だからアルゴはちょっとしみったれてる。いい意味でも。)

inspired by ソダーバーグの現時点での到達点がこの映画だったのかな。

と思うのです。

 

でも、ベンアフにとってのアルゴも、またソダーバーグ組の面々にとっても、

出来上がった作品群は決して到達点ではない。

のちのちのための通過点、

場合によっては踏絵みたいなもんだったんじゃないかな。

 

なので、上のコラムで書いてあったことも意味はすごーくよく分かるんだけど、

後々の評価を受けたり、決定版と謳われるようになる意志ははなからなく、

ただためし試し作ってみて、その時の観客に受けて、

でも「やっぱちがうな」と思ったら後腐れなく50歳で映画界を去り、

新しい表現の場を探しにゆく。

(テレビ業界に行くらしい)

そんなカッコよさは、

若くてエネルギーがあって少なくともほかの候補者より賢い大統領のいる国に

ぴったりかと思うのです。

たとえ今なんとなくうまくいっていないとしても。

 

ところで

ソダーバーグの作品は、

そもそも情緒なんてものが希薄で、

映画にあるまじき「能率」や「合理性」が際立っていて、

とにかくドライ。

引退作『サイド・エフェクト』は未見です。

そしてどれが一番好きだったかと問われると・・・

トラフィック』メキシコパートと『ソラリス』かな。。。